木造建物の耐震性能評価に関する研究

博士(工学)学位論文概要

本論文は、木造建物の耐震性能評価に結び付けるために、実験及び解析的に木造建物の静的及び動的な挙動を解明した結果をまとめたもので、6章からなっている。

第1章は序論であり、研究の背景、既往の研究と問題点、本論文の全体構成について述べている。

第2章では、木造建物が静的水平力を受けた場合の復元力特性及び破壊性状を把握するために行った在来構法木造住宅4棟と実験用木造軸組構造1体の実大水平 力載荷実験の概要と結果、ならびに、同時に行った常時微動計測及び自由振動実験の概要と結果について述べている。水平力載荷実験の結果、木造建物は、静的 な外力に対して、層間変形角で1/30〜1/20rad程度まで耐力を発揮すること、古い木造住宅では土塗り壁のせん断破壊、軸組構造では筋かいの損傷が 顕著であることを明らかにしている。水平力載荷実験の結果を、現在木造建物の構造設計で用いられている壁量による耐力評価と比較検討を行った結果、層間変 形角1/120rad時の耐力は、実存木造住宅の方が2〜3倍大きく、耐力壁の評価に問題があることを示している。一方、木造軸組構造について、既往の軸 組耐力壁実験の結果に基づいて、耐力壁の変形に応じた負担耐力を足し合わせることで、実験対象とした木造軸組の耐力と変形の関係をほぼ正しく追跡できるこ とを示している。

第3章では、在来構法木造住宅で多く用いられている耐力壁の耐震性能評価実験について述べている。耐力壁は重要な構造要素であるにも係わらず、第2章で指 摘しているように耐震性能は不明な部分が多いため、ここでは筋かい付木造軸組、竹小舞下地土塗り壁及びボード下地左官仕上げ壁について実施した実大せん断 載荷実験とその結果について述べ、定量的な再検討を行っている。せん断載荷実験の結果、現在木造建物の構造設計で用いられる壁倍率について、筋かい付木造 軸組では現在の基準値1.5に満たないものも見られること、竹小舞下地土塗り壁の壁倍率は現在一律に0.5とされているが、それを上回る場合があることを 明らかにしている。従来の壁倍率による評価のみならず変形性能や履歴消費エネルギーについても考察を行い、筋かいのある壁は筋かいの損傷により耐力を低下 して、消費エネルギーの増加割合が小さくなり、耐震上不利になる恐れがあることを示している。

第4章では、構法や建設年代など多岐にわたる木造住宅の振動特性を把握するために京阪神地域の木造住宅を対象に実施した常時微動計測について述べている。 これらの木造建物の固有振動数及び減衰定数の評価を行うとともに、重量算定に基づく初期剛性の評価法について述べている。常時微動計測が木造建物の振動特 性を評価するのに有効な簡便な手段であり、また、一例として、耐震補強工事を行った住宅の補強効果を判断するためにも有効であることを示している。

第5章では、第2章、第3章の実験結果と第4章の常時微動計測結果に基づいて、一般的な2階建木造住宅を対象に動力学モデルを構築し、木造建物の復元力特 性が折れ線とスリップの重ね合わせで近似できることを示している。この解析用動力学モデルを用いた実地震波による地震応答解析を行い、各層の最大層間変形 角や第3章と同様、履歴消費エネルギーなどの耐震安全性の判定尺度を用いて、木造建物の強震動下での挙動を明らかにしている。また、ベースシアー係数に着 目し、応答との関連を示し、2階建木造住宅が強震動を受ける場合、1層の変形が2層より大きくなること、2層の剛性が大きくなるほどその傾向が強いこと、 1,2層の重量比が応答に及ぼす影響は小さいこと、ベースシアー係数が大きくなるもしくは最大耐力が大きくなれば応答は小さくなることを明らかにしてい る。

第6章では、以上で述べた実験及び解析の結果得られた知見をまとめ、今後検討を進めるべき問題点について述べている。